Sunday, February 27, 2011

パール座



2月13日。泊まった部屋の臭さに耐えきれず、寒さをこらえて窓を空けたまま寝ていると、早朝、けたたましいサイレンに叩き起こされる。思わず生まれて初めてホテルの御意見用紙というものを利用して、この部屋が臭いことを謹んでお知らせする。朝6時のひっそりとした歓楽街に逃げ出すつもりで宿を出ると、まだ薄暗い川反の町には激しくタクシーが行き交い、徹夜明けを蕎麦屋で締める方々で賑わっている。ぶらぶらと秋田駅に辿り着き、再び鶏めしに挑んで見つけられずに羽越本線に乗込むと、ロングシートで鶏めしを食う乗客を発見した。窓の外では、雄物川の鉄橋から見える朝焼けが重層的な朝靄と相俟って素晴らしい。『砂の器』の羽後亀田が雪原の中に現れ、車窓に案外面白い象潟の島々が通り過ぎる。酒田駅で次の陸羽西線を待つ間に米沢牛まんをイートインした土産物屋では、ニューオーダーのリグレットが流れている。陸羽西線の車窓は真っ白で最上川もへったくれもなく、新庄に着いても凄い雪で、陸羽東線は少し遅れて入線。車内の放送では、踏切を一時停止しながら進むので、遅延が発生するかもしれないと告げている。窓際はしんしんと寒い。短い間隔でブレーキがかかると少し不安になるが、列車はほぼ定時で鳴子温泉駅に到着した。大雪の鳴子の駅前に出て、DX劇場跡など少しだけ町を見て廻る。



そのまま陸羽東線を乗り継ぎ、列車は山間を抜けて小牛田に着く。空はすっかり晴れ上がっていて、積雪もほとんど見えない。小牛田からは、がら空きの石巻線で石ノ森キャラに溢れる石巻の街へ。駅前でフランソワーズ・アルヌールを拝み、寂びた歓楽街を抜けて、成人映画館の日活パール座に参じる。日活パール座のある風景はあまりにも素晴らしいため、表に裏にと執拗にうろついて、少々営業を妨害してしまったかもしれない。劇場の裏には結構な喘ぎ声が漏れているのは、老婆心ながらもつい心配してしまった。旧北上川沿いに出て、中州に見えた石ノ森萬画館もせっかくなので寄っていく。サイボーグ戦士の姿をした萬画館員のお姉さんの目を盗みつつ、破れた障子の穴を覘くと、大人でなければ背の届かない高さの穴から見えるのが行水する女、という仕掛けが良い。旧北上川を眺めながらハカイダーのコーヒーフロートをいただき、お土産には珈琲文庫版の『龍神沼』を購入した。北上川の中之島には岡田劇場という芝居小屋系の映画館もあり、そちらも少し様子を伺っていく。最後に笹かまを買い漁って石巻を後にして、仙石線の快速で仙台へ。仙台では蕎麦で軽くしめて帰途についた。翌日、また東京は雪だった。

Saturday, February 26, 2011

鶏めし



2月12日。6時15分起床。前夜おやつに摘んで美味かった相馬屋のあんぱんをおみやげに補充。花輪線に乗って食すクリームパンも美味かった。閑散とした渋民駅に啄木の顔出し看板が見える。大更で列車交換。上り下りとも乗客多し。雲がかかっている八幡平を眺め、松尾鉱山を想う。松尾八幡平を過ぎて少し線路が登りはじめると、安比高原あたりで粉雪が舞い始めた。スイッチバックの十和田南駅で下車し、小坂町に向かうバスに乗る。毛馬内という街で乗客を全員降ろすと、後は小坂まで一人。毛馬内は良さそうな町だ。現存する最古の芝居小屋があることで知られる小坂は鉱山で栄えた町。さっそく廃線の鉱山鉄道の小坂駅を発見するが、雪に埋もれていて近づけない。お囃子の流れる明治百年通りはさらっとやり過ごし、川沿いにある映画館の花園館へ。ここは完全な廃館なのかと思っていたが、子供映画などをやっているようだ。ついでに製錬所の方にも近づいてみると、こちらもなかなか素敵な鉱山ぷり。どこか我が谷は緑なりき的な構造物も遠くに見える。残念ながら近づけないので、彼方に吹き出す煙をみて胸を躍らせる。



十和田南に戻ってからは花輪線で大館へ。大館はアメッコ市という祭りのようで、改札を出た所で白髭の神様にあめっこをいただいた。大館駅周辺の味わい深い経年ぶりは素晴らしい。ただし、目当てだった名物駅弁の鶏めしが完売だったのには呆然とした。大館からは奥羽本線で弘前に向う。天候はすっかり良い。弘前駅前でバスを待っていると、ガイドの方がどこに行くか聞いてくれるが、成人映画館とはなかなか言えない。バスから見て、何このパリと思ったのはメゾンマルタンマルジェラだった。秘した行先のテアトル弘前にも無事辿り着き、あたりの歓楽街をぶらついてから、高砂という評判の蕎麦屋で食い逸れた昼食をいただく。これが甚だ美味い。前川國男の弘前こぎん研究所もやはり行って良かった。名曲喫茶ひまわりで小憩し、夕焼けの岩木山を背に弘前を後にする。通路の向かいの夫婦がおつかれとかいいながらプシュッとやっていると思ったら、鶏めしを食っていやがった。秋田に到着し、七代佐藤養助で稲庭うどんをいただく。駅からはふらふらと川反の歓楽街を少しかすめて歩いて投宿。なんだかホテルが臭い。

Friday, February 25, 2011

三陸



2月11日。大荒れの予報の中、本年度も紀元節の連休を使って雪見を敢行した。一面雪景色の関東平野を臨み、これから向かう北の厳しさは如何ばかりかと気を引き締めるものの、連休初日の新幹線内はすっかり行楽ムード。車内販売の弁当は売り切れ、食いっぱぐれた若者が饅頭でお茶を濁している。一寝入りして仙台で目覚めると、空はまるっきり晴れていた…。一ノ関から大船渡線の快速スーパードラゴンに乗継ぎ。摺沢駅の乗降客がずいぶん多いので調べてみると、政友会が我田引鉄で大迂回をさせた町であった。気仙沼からは昨季シカと接触したエリアを過ぎ、陸前高田で下車。廃映画館の高田交友館が残っていればと思ったものの、やはり全然間に合っていない。高田の町は思っていたよりもひっそりしていて、旧年中に閉店した旨の張り紙が目立つ。高田からは再び大船渡線に乗り込み、終点の盛駅へ。楽しみにしていた蕎麦屋の保原屋本店は「臨時休業」の札の横にでかでかと「当分休みます」の張り紙。大盛況の支店に回り、油揚を刻んだ志乃だそばをいただく。地元の方々が「今、床屋行ってきた」と休日の社交をしている。



盛駅から三陸鉄道に乗って次は釜石へ。1両編成の南リアス線の乗車率は2〜3割ながら、アテンダントさんも同乗している。大観音が見えて来ると、ほどなく釜石に到着。観音方面のバスに乗っているリュックのご老人たちは観光ではなく、観音様はあさっての方を向いている。遥か彼方に大観音が見えるので、思わず停留所を運転手さんに確認してしまうが、それにしても圧倒的な寂れっぷりだ。エスカレータで観音様の足下に辿り着き、観音様の胎内をぐるぐると螺旋状に昇る。張り出す腕の上を歩くと足がすくんだ。バスで商店街に戻り、名所呑兵衛横丁を少し素見すものの灯りは少ない。工藤精肉店食堂部にて唯一人ポークソテーを待つこと25分、列車の時間も迫り、5分弱で食べられたのは半分ほどだろうか。盛岡直通の釜石線は人も疎ら。通路を挟んで反対のボックス席の女子は睡眠用のあったか靴下を履き足し、トロ箱オットマンですっかりくつろいでいる。車窓から見えた葬儀の花環には、新日鉄鉄友会と記されていた。遠野駅で交換した快速はまゆりは回転クロスで快適そう。花巻からは少し混むものとと思っていたが、全くゆったりしたまま3時間かけて盛岡に到着した。盛岡駅で宮古のパン屋だという相馬屋のパンをパッケージに魅かれ買い込む。ついでにテトラパックに入った南部煎餅ミミも二種類ほど求め、駅前にて投宿。