Saturday, November 17, 2012

萬集閣



11月10日。正午間際の中央本線の各駅停車に乗って、1時間半ほどで終点の甲府に到着した。甲府は18きっぷの乗継ぎで立寄った時も駅前でほうとうを食べたぐらいで、今までほとんど歩いたことがない。まずは駅前をぐるりとして、蔦に埋もれた六曜館珈琲店で少憩する。あれば軽食でもと思ったが、極めて純粋な純喫茶である。ホットレモネードに魅かれつつ、気候もよく店内も暖かいのでアイスコーヒー。「六曜館さん江」宛てられた高峰秀子の色紙が額装されて壁に掛かっている。一服してからは駅前を南へ進む。荒川に及んで視界が開けると、御坂山地の上からのぞく富士山の冠雪した姿がなんとも美しい。荒川の橋を渡ってほどなく、住宅街の中に「ずんちゃんパン」があらわれる。店内に足を踏み入れると、駅から歩いて来たことに驚かれ、多いに歓待をうける。余所者風情を匂わさずにいられるわけもないのだが、東京から来た者だとか名乗らされるのは、どうにも恥ずかしい。パンとあわせ、無骨で素朴なクッキーにもそそられて大量に買い込み、おまけに柿までいただいてしまった。ありがたく柿を購入したパンの袋に入れて去ろうとすると「パンがつぶれてしまいます」と厳しく戒められたので、あわててカバンに詰め込み、パンの方は大事に持ち帰らせていただいた。

さらに南甲府まで歩くことも考えたものの、そのまま引き返して中央商店街の方に向かう。内藤多仲や山田守による庁舎が取り壊されて普請中の甲府市役所を過ぎ、特殊浴場の呼び込みで賑やかな歓楽街を抜けるとアーケードの銀座通りに出る。銀座通りの春光堂書店のセレクトぶりはあまりにやばいので、ついつい箍が外れそうになりながら、ひとまず大山倍達の『世界ケンカ旅』を購うのに留める。こちらでは、書店オリジナルの印傳ブックカバーもとても素敵だったのだが、文庫の紙のブックカバーは2000年の山梨文学館のモノで少し寂しい。地元の文学館の地味なものとはいえ、広告モノのブックカバーはちょっと残念である。夕食には、昨晩、家でほうとうを食ってしまったので、甲府駅の食堂街で焼き飯。駅前の山交百貨店の食品街で風林火山茶など地産のものを物色し、六曜館珈琲店に戻る。六曜館でもう一杯珈琲を飲んでも良かったが、そのまま二階へ上がって投宿。六曜館喫茶店は、駅前旅館の萬集閣の一角に入っている。

テレビのローカルニュースでは、高校サッカーの山梨県大会決勝で、日本航空高校が初優勝したことを告げていた。山梨学院の4連覇を阻んだ日本航空とはどんな高校かと思って調べてみると、卒業生の中に大山倍達の名がある。大山倍達が山梨に縁があるとは全く知らなかったし、春光堂の棚も特に地元関連棚というわけでもなかったので、『世界ケンカ旅』を手にしたことには奇縁を感じてしまう。そういえば、J2を優勝したヴァンフォーレ甲府の優勝パレードは来週に行われるそうだ。