「六曜館さん江」と添書きのある高峰秀子の色紙を六曜館珈琲店で見て思ったのは、何の撮影で甲府に来た時なのかなということだった。甲府のバス会社の話とはいえ『秀子の車掌さん』は戦前なので流石に古すぎるし、深沢七郎の『笛吹川』の撮影の時にでも寄ったのだろうかと思い、甲府でロケしたかもしれない高峰秀子の映画を調べてみると、木下惠介監督の『二人で歩いた幾春秋』という映画がある。この映画の中には、甲府市内にある岡島デパートの食堂で高峰秀子がカツ丼か親子丼を悩むシーンがあるそうで、六曜館の建物の経年ぶりからしても、昭和37年の映画なら、その可能性も無くはないように思えた。
また、岡島デパートと聞いて思い出したのは、市内を散策していた時に当のデパートあたりで見かけた六曜館という骨董屋が、駅前の珈琲店となんらかの関係があるのだろうかと思ったことで、そこで六曜館骨董店についても少し調べてみた。しかして、骨董店と珈琲店のオーナーは同じ方のようである。色紙の「六曜館さん江」というのは、骨董好きの高峰さんが岡島デパートの撮影についでに骨董店に寄って…ということは多いにありうる。後は六曜館骨董店が当時から岡島デパートあたりにあったのかなど、六曜館の創業について調べてみると、喫茶店の方が昭和48年、骨董店は昭和51年のオープンということがわかった。つまり、残念ながら昭和37年の『二人で歩いた幾春秋』の撮影には全く間に合っていないことになってしまった。
六曜館珈琲店は、駅前旅館の萬集閣一階の片隅で営業している。遅まきながら、その萬集閣の玄関のガラスの上隅に古美術古民芸とあったことを思い出し、撮っていた写真をよくよく見てみると、植木に隠れた硝子の部分に「ギャラリー六曜館」の文字が見える。これはおそらく骨董店もこちらで開業したと思っていいのだろう。まあ、珈琲店でも骨董店でもどっちも六曜館は六曜館であるが、映画の撮影と関係は無さそうなのは少々残念な気もする。六曜館珈琲店には、今度、乗継ぐ時にでも寄って行こう。そしてカツ丼か親子丼のどっちかを岡島デパートに食いに行きたいと思う。