尼崎の市営バスで市役所まで行き、西難波界隈を歩く。店前に出した椅子に老婆が微睡む文学堂書店は、その風情があまりに完璧過ぎるので、書架のジャンプ一冊さえ、よそ者が汚してはならない気にさせる。路上に蒔かれた餌を啄むスズメに不用意に近づいていくと、庇護者であろう眼前の串カツ屋の親父にギロリと睨まれる。実は目をつけていた串カツ屋だったのだが、ついたじろいで目を逸らしてしまう。ひっそりした西ナニワ商店街のアーケードと、そこに交差して佇むささやかな難波市場を見て回る。市場の休日を示す看板によれば、この日は営業日であるはずなのだが、開いているのは雑貨店一軒で、西ナニワ商店街のアーケードも八百屋一軒しかやっていない。掠れかけた看板に「薄利多売の店」と見える金物屋は、どこで算盤が狂ってしまったのだろう。
出屋敷行きバスの超絶的に酒臭い車内で、昏睡状態のおっちゃんが横たわっている。時刻は昼の2時を過ぎたばかりである。出屋敷駅から小体なアーケードの出屋敷中通りを抜けると大衆喫茶玉一の跡があり、さらに阪神尼崎駅方向に少し進むと、三和市場を手始めに大商店街がはじまる。歩き疲れた体に生姜を絞った冷やしあめが美味い。「マジック108」という札を抱えた虎公が、アーケード上空のレールをギコギコ往復している。 ひとしきり巨大商店街を巡り、喫茶ジャワにて小憩する。