呉に到着すると、心配していた雨はまだそれほどでもない。中通に向かって北口を出て、自衛隊御用達の制服店や帽子店の店先を素見す。このあたりでは、美容院の店先にも「自衛隊歓迎・おしゃれ坊主・ソフトモヒカン」などという惹句が踊っている。中通の商店街に差し掛かると早速見目麗しい中ビル。呉名物のメロンパン中通支店で、どっしり重いメロンパンと平和パンをもとめ、はす向かいの福住フライケーキでは、揚げたてのあんドーナツを買って歩き食いする。自分の後に並んでいたトレンチコートの紳士は、2コばかりのフライケーキを買いもとめ、颯爽と街へ消えていった。麗女通、新天街と、開店前のスナック街を流し歩き、海軍珈琲の昴珈琲喫茶部にて少憩。
商店街を堪能した後は、両城地区の急傾斜地帯を西愛宕町からアタックする。微かに段々の形跡が残るガレ場を抜けると、尾根伝いには古い墓が並び、ぽこっと空いた更地に、今後一切ここに住居は建設できないとの標が立てられている。一度谷戸に下って、両城の主稜へは北壁から挑む。山上でしばし軍港を望み、難所の200階段を下山する。激しい雨の中、下の見えない断崖に足がすくみ、誰もいないのを良いことに、よちよちと手すりを握って降りてきた。そういえば、階段上を曲がったところですれちがったお婆さんはあの壁を登ってきたのだろうか。
二河川を渡り、海沿いを駅方面に帰りがてら、宙に浮ぶの潜水艦のあきしおを見上げる。家路を急ぐ人々で混雑していた夕方の呉線も、広駅を過ぎると徐々に空き始め、安芸津駅ぐらいではかなりガランとする。冬至なので当然窓の外はもう真っ暗である。隣の車両では「君が望むなら〜」「ヒデキ!」とがなる学生たちで騒がしいが、若者の間においても、まだまだヒデキの絶唱が広島県人の嗜みであることに少し心がなごむ。呉線を終点の三原で下車し、駅前の食堂でハンバーグ定食。味噌汁の具にスパゲッティというのは初めてである。三原からの夜の山陽本線はゆったりしている。岡山に到着すると結構しっかり雨なので、寄り道せずに市電に乗って宿へ。夜食の平和パンが美味い。