9月8日。空が白みはじめて5時を過ぎると、外は人の動く気配もする。半睡の中、滔々と流れる水音を聞きながら、花巻市内は祭りの朝なんだなと考えていると、『ロシュフォールの恋人たち』の冒頭が思い浮かんだ。5時半に布団をたたんで朝湯につかり、宿のまわりを軽く散歩する。7時にはお膳が配られて、久しぶりに『デザインあ』を見ながらの朝食。8時のバスで鉛温泉を後にして、花巻駅から東北本線を北上駅まで戻る。駅の周りを少しだけ散策してみると、地味ながら、北上の街もこの週末は祭りのようであった。
北上駅に戻ると、すでに入線していた1両編成の北上線の席は7割方埋まっている。はじめて乗車した北上線だが、シェードがかかってあまり外も見えず、つい眠気に誘われた。ふと目を覚ますと、後から乗ってきたと思われる幼気な女の子が、始発からいた両脇のおじいさんとおばさんにアメちゃんを配っている。ニコニコしたおじいちゃんはすぐに飴を口にしたものの、無邪気な感じで早々に吐き出してしまうので少しヒヤヒヤする。横手からは奥羽本線に乗り換え、山間の国境を越えて山形に入る。新庄からは陸羽西線に乗り換えて日本海へ。奥羽線の車内でふわふわ漂っていたのは羽毛かと思ったが、陸羽西線でも派手にさまよっているので、何かの綿毛なのだろう。最上川沿いに陸羽西線を進み、余目で更に羽越本線に乗り換え、奥羽山脈を越えてなんとか鶴岡に到着する。そういえば、北上駅で買ったシライシパンのコーヒーあんぱんは案外美味かった。