日も傾きかかったところで宿に鞄を降ろし、複合商業施設の稚内副港市場へ赴いて、離れのロシア料理店ペチカで晩餐をなす。いただいたのは、代表的なロシア料理を揃えたサハリンという名のコース。とにかくビーツのサラダが美味いし、水餃子のペリメニやボルシチなど、ロシア料理を存分に堪能する。後からやってきたロシア通気取りの客人の失礼ぶりは少々残念だったが、その爺さんのおかげで、「酒田の行商人のおばさんはロシア語を喋る」など、オーナーの素敵な話を伺うこともできた。ということで、むっつり黙しているなら、失礼ぐらいな方がまだいいのだろうかとなどと考えたりしてしまう。
さっさと完食して、グルジアワインのピッチが上がる店を離脱しようと思ったところ、いつもは6時半からだというオーナーの店内ライブを少し早めにやっていただけるとのことで、有難く拝聴した。ロシア通の翁が歌声喫茶で愛唱していたという「鶴」という歌は、1969年の歌だそうだ。また、爺さんが気持ちよく歌ってくれるのがいたく耳障りなのは言うまでもない。1969年の歌もいいが、リクエストが有りならば「カチューシャ」とか「百万本のバラ」も聴いてみたかった。やはりロシア民謡は哀切でたまらない。店内で販売されている巨大な本場物のマトリョーシカもなかなか素敵で、半額セールというのもあわせてかなり心動かされたものの、なんとか踏み止まることができた。
副港市場内に再現された在りし日の稚内桟橋駅や稚内劇場などをひとくさり見て、階上にある温泉施設で湯につかる。宗谷岬の方を眺めては、サハリンに渡る船の汽笛や海鳥の声を聴きながら入る風呂で、しみじみと他所者感について考えた。夏至に近い時期だと、一日が長くて旅も充実するなと思いつつ、のんびり風呂から上がってみると、風呂上がりにと思っていた稚内牛乳のソフトクリームの営業時間が過ぎている。取りも直さず閉店間際の駅売店に駆け込んで、稚内牛乳のアイスだけは何とか確保した。夜風に当たりつつ北防波堤からノシャップ方面をしばし望んで宿に戻る。祭りはまだまだ続いている。