Friday, October 18, 2013

烏山住宅



世田谷文学館までは家から歩いて1時間半ほどかかった。烏山駅を越えて見えてきたガランとした空き地は、前川國男設計の烏山団地があった所かと思いながら素通りし、まずは文学館のロビーで小憩する。

現在、世田谷文学館は幸田文展。幸田文といえば、個人的には映画の『流れる』。映画化作品の展示コーナーには、中古智によるセットデッサンなどもある。普段はサイン本の有難味などは全く解さないのだが、流石に成瀬巳喜男様と書かれた謹呈本はかなりヤバイお宝だろう。そして、山田五十鈴、杉村春子の両先生に高峰秀子などのサインが染め抜かれた『流れる』映画完成記念のれんとか果たして市場に出たりしてるのだろうかと、気になったりした。『おとうと』の脚本家である水木洋子宛の書簡などはさらっと。それにしても、やはり露伴の筆が良い。酒の字百体の下書きなど、甚だ堪らないものであった。

恩地孝四郎の朔太郎像を挟んで、文学館のコレクションの方は「旅についての断章」というテーマの展示。北杜夫の繊細な線で書かれた細かい字のノートもさることながらが、父茂吉のトランクが良い。グリニッチヴィレッジにて並んで古本をあさる植草甚一と岡本喜八の写真なんてものもある。そして、ムットーニのからくり劇場が面白かったことを忘れずに書いておかねばなるまい。

文学館を出ると既に暗くなっていたので、乗り物に乗って帰ってしまおうかとも悩んだが、ひとまずは仙川を目指して歩く。先ほど遠目にスルーしてしまった、雑草の生い茂った烏山住宅の空き地を抜けて、商店街に出る。人気の肉屋はとっくにコロッケが売切れているので、代わりにエビグラタンコロッケを買い食いして歩く。すっかり日が暮れた甲州街道は、今日もムクドリの大群で賑やかであった。